2016年03月31日
地域工務店の戦略~福島明先生を招き勉強会を開く(2)
■■地域工務店の戦略~手作りとローテクを大切に■■
断熱・気密技術の普及は、北海道の家づくりを大きく変え、それまでのいろいろな制約や不便さから開放しました。どこでも暖かいので室内を広く活用でき、基礎断熱で床下空間も活用。そして結露や構造体の腐朽から開放されたことなど。ここから、「北海道スタイル」と呼ぶ新しい家づくりが始まります。
地域工務店が大手ハウスメーカーに対抗するには、大量生産を前提にした工業化住宅とは違う価値をアピールする必要があります。それは手作りの良さです。日本はこれまで手作りを大事にしてきた国です。大手メーカーが採用しているキレイな木目の床材。実はプラスチックなどを使って木のように見せかけた商品です。これに対して、本物の木の良さをアピールできるのは工務店の家づくりだからできること。
また、ZEHの実現には省エネ設備や太陽光発電の採用が必須ですが、最先端の設備にあまりこだわらない方がいいと思います。それは、耐久性や取り替える際のコストなどを考えるとお客さまにとってリスクがあるからです。
地域工務店が取り組むべきは高断熱化です。先の研究結果のように、高断熱化で健康増進の効果はアピールできても、太陽光発電の設置で健康増進をアピールするのは難しい。また、設備工事は費用に占める機器代などの割合が高くなりますが、高断熱化は断熱材といった材料費よりも大工さんの人件費(施工の手間)の割合が高くなります。地元にお金や仕事がまわるという意味で、人件費比率が高いことはいいことです。
■■家づくりは民家型で■■
大手メーカーと地域工務店が目指す家づくりは、いろんな面で違いがあります。それを端的に表現すると、大手=宇宙船型、工務店=民家型となります。
たとえば同じ高断熱化という目的でも、アプローチが違います。大手が採用する窓は、クリプトンガス入りのトリプルガラス。これは、冬でも日射をシャットアウトし、外界と室内とを分断する考えです。これに対し、工務店は日射透過性の高いトリプルガラスを使った窓に日射遮蔽の工夫を組み合わせます。十勝なら冬は晴れる日が多いので、日中はガラス越しに日射を取り入れて暖房の負担を軽減できます。
換気と空調は、大手は熱交換換気にヒートポンプ冷暖房。今後はHEMSを組み合わせることで、熱交換換気の換気量も自動調整されるようになると思います。工務店は、温水パネル暖房をベースに、局所的にエアコン冷房などを組み合わせ、換気も機械換気は法律で定められている最低限のものにして、あとは自然換気などをうまく組み合わせる。
これらの違いを一言で表すと大手は「閉鎖型」。つまり、宇宙船のように室内と外界を完全に分離する考え方です。全てが自動で住人が室内環境を考える必要性がほとんどありません。工務店は「閉鎖系」。言葉は似ていますが、意味は全く違います。
先ほどの窓に対する考え方に代表されるように、昔ながらの民家のように外と内とをうまくつなげ、自然エネルギーをうまく利用して快適でエネルギー消費の少ない家を作ります。住人が主体的に室内環境をコントロールする家だとも言えます。
■■断熱リフォームの重要性■■
性能が年々向上する新築住宅に比べて、古い住宅のリフォームは課題があります。大手の会社は、「新築並みにきれいにリフォームできる」というリフォーム商品を発売しました。大ヒットして全国で年間2万件ほど工事をしていると聞きます。内外装を一新してキッチンなどの水回りも変えると1000万円以上はかかります。
でも、断熱性能を向上させることはしていません。そこそこのお金をかけても新築よりも少し性能が劣るのは仕方がない・・・これでは「改修して良かった」とお客さまが実感できないかもしれません。
リフォームは、新築以上の高性能を目指すことが大切。今度私が手がける断熱改修も、軸組の外側に200mmの断熱材を付加します。これぐらいやらないとインパクトがない。そのための技術は既にあります。コストを抑える工法も開発されてきています。
30年前からある外壁100mm断熱住宅の性能向上を考え、発泡系断熱材を外壁の外側に150mm付加して新たな壁仕上げを行う工法を私が研究しました。グラスウールに換算すれば合計約300mm相当の超高断熱になります。既に2社が製品化しており、実績も出ています。
また、今年の夏に某ハウスメーカーが十数年前に建てた住宅をさらに高断熱化する計画を立てています。この住宅には通気層があるなど、現在の高断熱・高気密住宅と基本的に同じ工法ですが付加断熱がありません。そこでこの通気層を簡単にふさぎながら付加断熱の施工と新たな通気層を造る施工をし、コスト面も検証するなど、研究を進める予定です。
地域工務店は、こうしたきめ細かな仕事が得意であり、それが生き残る1つの道です。
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以上が講演の要旨です。
十勝2×4協会の家づくりも、どちらかというと「民家型」でしょうか。
今回のお話のように、断熱も「これで十分」というものがありません。
時代とともに要求される性能レベルが変わってきています。
特に最近は、電気料金の高騰やエネルギー情勢の不安定化で、暖房費をなるべく抑える家づくりが求められてきています。
新築の性能向上はもちろんですが、福島先生が指摘されたように、15年前、20年前にきちんと造った家もさらに性能向上ができるということを、リフォームを通じてお客さまにご提案していきたいと考えています。
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2016年03月30日
地域工務店の戦略~福島明先生を招き勉強会を開く(1)
十勝2×4協会は3月23日、帯広駅前のとかちプラザでセミナーを開催しました。
今回は、「とかち新住協」と「とかちの木で家をつくる会」の2団体からの後援もあり、十勝管内から多くの工務店が参加しました。当会を含め3団体とも地場ビルダーとして地域に合った家づくりや地産地消に取り組んでいます。
<福島先生の略歴>
セミナーは北海道科学大学の福島明教授を講師に招き、「北海道スタイルと地域工務店の戦略」というテーマで勉強しました。
福島先生は、北海道立総合研究機構 建築研究本部 北方建築総合研究所(略称:北総研)に入所後、寒冷地住宅・建築の環境技術の研究に従事し、道の北方型住宅プロジェクトや国の省エネルギー基準策定等に参加。環境・省エネルギー建築賞や国土交通大臣賞、空気調和衛生工学会賞などを受賞。その後、北総研の副所長を経て現職に就きました。
セミナーでは、3年前の省エネ基準改定についておさらいし、次に今後の省エネ政策の行方について説明しました。そして北海道スタイルの家づくりと工務店が目指す家づくりの方向性について、最後に地域工務店が取り組むべき重要なテーマの1つである性能向上リフォームについて取り上げました。
以下に、福島先生の講演内容をかんたんにまとめました。
■■国の省エネ基準改定のねらいと今後の住宅■■
3年前の省エネ基準改定では、それまで断熱性能優先だったのが、設備の省エネも合わせて評価するようになりました。国がこうした道筋を示す遙か前から北海道では断熱住宅の研究を進めてきた歴史があります。十勝2×4協会が発足したての1979年、道内の研究者らが30年後の新築住宅の性能目標を考えました。研究では、目標値を現在の北方型住宅ECOレベルに設定しており、その成果が後の北方型住宅基準にも生かされました。
北方型住宅ECOや札幌版次世代住宅基準など、国の省エネ基準を大きく上回る断熱基準が道内で出てきて、地域工務店は果敢に挑戦し、見事にクリアしてみせました。今や外壁に30cm厚、40cm厚の断熱材を入れている住宅も出てきています。十勝2×4協会のメンバーのみなさんも、そういった住宅に挑戦された方がいらっしゃると思います。やってみると意外にできるものです。
一部の大手ハウスメーカーは大胆な超高断熱化を進めており、勢力を伸ばしていますが、大半は取り組めていません。規格化を進めた大量生産システム(=工業化住宅)なので、急に超高断熱化に対応するのは難しいからです。そこに地域工務店が勝つチャンスがあります。今後は、北方型住宅ECOレベルの2倍の断熱性能となるUA値=0.2Wレベルを目標値に進めてほしい。そこまで進めば、国が推進するZEH(ゼロエネルギー住宅)の実現も容易になるし、エネルギー使用量の低い住宅になります。
■■高断熱化の恩恵は省エネ以外にもたくさんある■■
断熱性能向上の価値は省エネだけではありません。
快適性、耐久性の向上や建物価値の向上だけでなく、健康増進や災害時、老後の安心にもつながってきます。
循環器系統の病気は、血圧の上昇が引き金となり、味付が濃く、塩分摂取量の多い地域は高血圧の人が多く、発症率が多くなるため、患者発生率は東高西低の傾向です。ところが、北海道だけは例外で、全国平均程度です。これは、北海道で早くから高断熱・高気密住宅が普及してきたからでしょう。
さらに、断熱住宅と住む人の健康の関連を研究する動きが最近活発です。慶応大学の研究によると、室温が低下することで60代以上の高齢者は血圧が大きく上昇するそうです。
これまでは、高断熱化を進めても光熱費の低減効果で見れば元を取るまで時間がかかると指摘されていました。ところが、こうした室温変動と病気の関係が明らかになるにつれ、高断熱化で室温が安定することで健康増進や健康保険負担の軽減効果があると評価されるようになり、10年ほどで元が取れるという試算結果も出てきました。
※次回の「地域工務店の戦略~福島明先生を招き勉強会を開く(2)」に続きます。
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2016年03月19日
ZEHって何?
昨年ぐらいから、住宅業界では「ZEH」という言葉がキーワードになりつつあります。
そもそも、「なんて読むの?」と言いたくなるぐらい、一般にはなじみのない言葉です。「Z=絶対、E=いいから、H=早く来て」の略でもありません・・・
ZEH=ゼッチと読みます。Zero Energy Houseの略です。ゼロエネルギー、すなわちエネルギーを消費しない家を造りましょうというのがキーワードなのです。
ZEHの正体
どんなに断熱を厚くしても、外が寒い限り熱はゆっくりとですが屋外に逃げていきます。ですから北海道に住んでいる限り暖房は必要です。生活している以上、調理や照明、入浴などでもエネルギーを使います。エネルギーを消費しない家なんて夢のまた夢。どうやってゼロにするのか。答えは屋根の上の太陽光パネルにあります。
エネルギーを使った分以上に太陽光パネルで発電して電力会社に売却すれば、「差し引きゼロ」になります。それがZEHの正体です。
このZEHを国は「新築住宅の標準に」と意気込んでいます。なぜか?家庭からのCO2排出量を大幅に減らせるからです。日本はCO2排出量を減らすために、家庭部門の排出量を約4割も減らさないといけないのです。
エネルギーを使った分だけ太陽光発電で補えれば良いのですから、理屈は難しくありません。東京や大阪では、北海道の省エネ基準相当の断熱性能があれば、4~5kW分の太陽光パネルを載せるだけでZEHになります。国がZEHを審査する際にとりまとめた平均データを見ても、そうなっています。だから、やろうと思えばあまりコストアップなく実現可能です。時の総理大臣が直々に「新築戸建の半数以上をZEHにしたい」と言い出したのもそのためです。
帯広市内にある、環境配慮住宅を条件にした分譲地。ただし、ZEHほど厳しい条件ではない
ところが、北海道はそうはいきません。最低気温が氷点下20度30度と冷える真冬があるので、暖房エネルギーが東京、大阪よりもずっと多くなります。つまり、東京、大阪よりもより多くの太陽光パネルを載せないとゼロエネにならないのです。
試算では、省エネ基準より厳しい北方型住宅ECOレベルの断熱性能でも、7~9kW分のパネルを載せないとZEHにならないようです。もちろん、住宅の断熱性能を上げていけば5kW程度に減らせるでしょうが、そのためには断熱強化などで数百万円も追加費用がかかるかもしれません。
予算がギリギリな場合、この数百万円がプラスされると融資審査が通らないかもしれません。大きな課題です。もちろん、地域型住宅グリーン化事業など、補助金を活用することもできますが、戸数に限りがあるため、全ての人が恩恵を受けるわけではありません。
ZEHにしなければならないの?
さて、ZEHを新築戸建住宅の半分にするという話は、法律で決まったわけではなく、あくまでも2020年度までの努力目標です。全国を見渡しても、新築に占めるZEHの割合はまだ3%程度と言われています。50%というのは、かなり無茶な目標のようにも見えます。
国がまとめた普及のロードマップ。この通りに進むかどうかはわからない
一方、北海道は東日本大震災のあった年から北海道型のZEHを研究しています。「北海道型ゼロエミッション住宅」と名付け、地域の材料をうまく活用し、自然エネルギーの有効利用や高効率設備の導入法など、さまざまなZEH導入の課題について研究を進めています。冬に災害が起きたとき、自力でエネルギーを生み出し、少ないエネルギーを有効活用できるZEHは評価されています。メリットは温暖化防止だけではないのです。
帯広市も、高断熱化と太陽光発電の設置で使用エネルギーを減らす住宅の建設を促進しようとニュータウン開発を民間業者と共同でするなど力を入れています。
今後の家づくりはどうなるの?
いろいろな考え方がありますが、北海道で有力になりそうなのは、「断熱性能を従来よりも高いレベルに設定して暖房エネルギーを減らした上で、オプションでZEH対応にする」というもの。具体的にはどういうものでしょうか?
北海道は、新しい北方型住宅制度として「きた住まいる」をスタートさせています。これは、省エネ性、耐久性、耐震性に優れた家を建てる住宅会社を「きた住まいるメンバー」として登録し、建てた住宅の設計図面や工事記録を道が一定期間保管し、建て主や住宅会社が履歴情報としてメンテナンスやリフォーム、売買時に活用できる制度です。
この制度では、住宅の断熱レベルを3段階に分け、一番下の★ランクは国の省エネ基準レベル相当、★★ランクは北方型住宅ECOレベルです。そして、一番上の★★★ランクは、「ゼロ・エミッション住宅レベルと同等」と説明しています。これは、国の省エネ基準よりも4割程度断熱性能が上ですが、十勝2×4協会のメンバーなど、性能の高い住宅を建てた実績のある住宅会社では、技術面でもコスト面でも問題なく建てられるレベルです。
つまり、道が最高レベルとする★★★ランクの断熱性を持った高断熱住宅に、太陽光パネルを載せることでZEHを目指す。そういう方向で今後進んでいくかもしれません。
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